究極のギムレットを求めて

g-2.jpg g-33.jpg g-44.jpg g-55.jpg

提督は現代至高のバーテンダーと共にカクテル探索と追究中です。

辿り着いたのがギムレットだ。そして下記文に出合ったのだが、

まだまだ、このレシピは自分には合わない。提督版ギムレット出来次第

この場で発表させていただきます。


「本当のギムレットを知らないんだね」とテリー・レノックスは言った。

ギムレットには早すぎる

レイモンド・チャンドラーの代表作『長いお別れ(清水俊二訳)』=『ロング・グッドバイ(村上春樹訳)』に重要な小道具として登場するギムレット。物語の序盤、店を開けたばかりの静かなバー。マーロウとテリー・レノックスがギムレットを飲みながら友情を育むシーンはハードボイルド史に残る名シーンの一つです。 私が忘れられなのが、落ちぶれた暮らしをしているレノックスにマーロウが、レノックスの旧友であるラスベガスの大立者を頼ればよいと諭すシーン。レノックスは、それはできないと断ります。理由は「ぼくが頼めば彼は断れない。それはフェアじゃない」から。マーロウは「彼に借りを返す機会を与えるべきだ」と反論しますが、レノックスは聞き入れません。一見似た者同士に思える二人の、価値観や人生観の決定的な違いを端的かつ如実に表し、かつ、その後の二人の運命を暗示する名シーンだと思います。

本当のギムレットを知らないんだね

また、レノックスがギムレットのレシピを語るシーンも印象的でした。彼いわく「本当のギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、他には何も入れないんだ」とのこと。酒にあまりこだわりの無いマーロウは軽く聞き流しますが、これを聞いていたバーテンが後にローズのライム・ジュースを仕入れてマーロウに振舞います。その「うすい緑がかった黄色の神秘的な色」をしたギムレットに対するマーロウの感想は「やわらかい甘さとするどい強さがいっしょになっていた」というものでした。ギムレットは錐(きり)の意であり、この鋭く突き刺さるような味も語源の一つと言われています。 ところで、テリー・レノックスが語ったこの「本当のギムレット」とは何を根拠としているのでしょうか。過去の何かを引きずり、世捨て人のように生きるテリーが珍しく執着をみせたこの台詞には、どんな意味があるのか。なぜ他のカクテルではなく、ギムレットだったのか。そしてこの奇妙なレシピには何か根拠があるのか。その謎の答はロンドンにありました。

伝説のバーテンダー

カクテルの歴史には諸説がありますが、現代のカクテルの多くはアメリカで生まれ、1920年代、禁酒法の時代にアメリカのバーテンダーが世界中に散ったことにより広まったと言われています。その中の一人がハリー・クラドックです。アメリカからロンドンに渡った彼はやがてサヴォイホテルのアメリカン・バーのチーフ・バーテンダーとなり、その独創的なアイデアと豊富な知識で、カクテルの権威の一人と認められるようになりました。そのハリー・クラドックが1930年に発表したのが「サヴォイ・カクテルブック」です。レシピ集というより薀蓄やイラストを多用してカクテル文化の紹介することに主眼を置いたこの本は、現在でも世界中で読み継がれる”バーテンダーのバイブル”だそうです。そこにはギムレットのレシピが次のように記されていました。 「バローのプリマスジン1/2、ローズのライムジュース(コーディアル)1/2、ステアしてグラスへ、必要に応じて氷」 なるほど、イギリス仕込みのテリー・レノックスの台詞は酔っ払いの与太話ではなかったことが分かりました。イギリスの特産品であるジンとローズのライムジュースを使ったギムレットはハリー・クラドックも認めた正統だったのです。そして、イギリス人にとっては譲ることのできない矜持でもあったのでしょう。テリーの台詞には、彼の失ったイギリスでの日々と愛した人への想いが込められていたのではないでしょうか。「プロットよりもシーンを重視する」といって憚らなかったチャンドラー。彼のディティールへのこだわりが感じられる台詞でもあったわけです。